現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 【特別対談】カーデザインの過去・現在・未来「ジョルジェット・ジウジアーロ×マツダ・前田育男」

ここから本文です

【特別対談】カーデザインの過去・現在・未来「ジョルジェット・ジウジアーロ×マツダ・前田育男」

掲載 3
【特別対談】カーデザインの過去・現在・未来「ジョルジェット・ジウジアーロ×マツダ・前田育男」

電動化の時代、クルマの形はどう変わるのか? スポーツカーと実用車のデザインの違いは?ジョルジエット・ジウジアーロと前田育男、自動車の造形を知り尽くすふたりが、デザインについて語り合った。

家族ぐるみの交流があるジウジアーロ家と前田家

自動車デザインの巨匠、ジョルジェット・ジウジアーロについては、いまさら説明は不要だろう。初代フィアット・パンダや初代フォルクスワーゲン・ゴルフといったベーシックカーから、BMW・M1やマセラティ・ボーラといったスーパーカーまで手がけ、自動車の造形に大きな影響を与えたカリスマだ。

いっぽう、“魂動デザイン”というコンセプトを掲げ、自動車デザインの可能性を広げたマツダの前田育男の名前も、自動車史に長く残るはずだ。彼が陣頭指揮を執ったマツダCX-5やコンセプトカーのRX-VISIONは、「もう新しい形のクルマは生まれないかもしれない」という諦めムードを一掃したのだ。
2023年秋にジウジアーロ氏が来日した際に、ふたりの異能デザイナーの対談が実現した。実は、ふたりの間には浅からぬ縁がある。前田氏のご尊父である前田又三郎さんは、かつてマツダのデザイン部長を務めたデザイナーであり、若き日のジウジアーロ氏と一緒に仕事をしているのだ。
ジウジアーロ氏は、ベルトーネに在籍していた1960年代初頭、マツダ・ルーチェのデザインを手がけている。1966年に発表されたルーチェの写真をお見せすると、ジウジアーロ氏は「いま見てもこのクルマはモダンです」と懐かしそうに目を細めた。

その様子を見ながら、前田氏はこう語る。
「モダンだし、エレガントでもあります。うちの家にもこのクルマがあって、親父が運転していました。私事ですが、私は(ジウジアーロ氏のご子息の)ファブリツィオさんとは友人で、時々食事をする仲なんですよ」
つまりジウジアーロ家と前田家は2世代に渡り、家族ぐるみで交流があるのだ。したがっておふたりの対談は、クルマの写真を見ながら、実にリラックスしたムードで進行した。

スーパーカーより実用車のデザインの方が頭を使う

ジウジアーロ氏はかねてから、自身が手がけたクルマで一番気に入っているのは初代フィアット・パンダだと公言している。そこで、実用車とスポーツカーのデザインの違いをおふたりに尋ねた。すると、まずジウジアーロ氏が身振り手振りを交えて、情熱的に答えてくださった。
「スーパーカーをデザインするのは、ある意味で簡単です。好きなように描いて、そこからベストのデッサンを選べばいい。サイズの制約も、経済的なリミットもありません。いっぽうパンダの場合は、コストの制約があり、コンパクトで軽くして欲しいけれど室内は広くしろというリクエストもありました。だから、スーパーカーをデザインするときよりも頑張って頭を使う必要がありました。しかし、そうした条件をクリアして問題を解決しながらデザインを進めていくことは、大きな達成感が得られるのです」

前田氏はじっくり考えてから、次のように答えてくださった。
「ジウジアーロさんがおしゃる通り、確かに実用車のデザインにはいろんな制約があります。市場の要求、サイズ、コストなどの条件に合わせながらベストな回答を探し出す作業の連続で、最高の妥協ラインを見つけ出すバランス感覚と粘りが強さが必要です。いっぽう、スポーツカーは、ブランドを表現することが最も重要となります。ブランド価値を最大化するための道具、宝石のようなモノなので一切の妥協は許されないし、デザイナーもそのカタチや質に妥協を許さない、高い美意識と哲学が必要です」

ここでジウジアーロ氏は、「パンダのエピソードをひとつ披露しましょう」と、いたずら小僧のような表情で微笑んだ。
「1976年だったと思いますが、当時の私はイタルデザインという会社を経営していました。7月の終わりに、フィアットの(カルロ・デ・)ベネデッティ副社長がやって来て、フランス風のクルマをデザインしてほしいと私たちに依頼したんです。でも、バカンスのシーズンです。私は、大丈夫、9月になったらすぐにデザインする、と伝えました。ところが彼は、9月では遅すぎるからすぐにデザインを始めろと言うんです。仕方がないので私はサルデーニャ島に仕事道具を持って行き、朝は泳いで午後からデッサンをするというバカンスを過ごしました。イタリア人としては最低のバカンスです(笑)。そして約束通り8月15日にデッサンを提出しました。すると、バカンスなのでエンジニアはだれひとり出勤していないと言われました。マンマ・ミーア! 私はもう、トリノには帰らないと伝えました。それで私のバカンスは終わりです(笑)」

「私はミウラの父だと言うことはできません」

懐かしい話題から、テーマは現在、そして未来のクルマへと移っていく。ジウジアーロ氏は、BEVのデザインについて、「とても面白くてチャレンジングだと思います」と語る。
「大きくて重たいエンジンの存在を前提としない電動車両は、広いスペースが使えるようになります。私は、自分がクルマの背を高くした最初のデザイナーだと思っています。ゴルフにしろパンダにしろ、短い全長はそのままに、少し屋根を高くすることで合理的にスペースを確保しました。BEVのレイアウトについても、様々な角度からアプローチができるでしょう」

ジウジアーロ氏のこの発言を受けて、前田氏は同意をしながらも次のように述べた。
「スペースの使い方は大きく変わり、その利点をどう活かすか? 多くのオポチュニティ(好機)があると思います。加えて、我々デザイナーはいろいろな選択肢を探求しながら、新たな時代に向けたカーデザインを創出していくことが必要だと考えています。軽量化、空力性能向上など、あらゆるエネルギー消費、抵抗を減らしていくチャレンジと同時に、その過程で今まで積み上げてきたクルマの様式美をどう守り、どう進化させていくのか? 我々デザイナーが真剣に取り組むべき課題だと考えています。新しいことだけが価値ではありません」
ジウジアーロ氏は、この前田氏の言葉に大きくうなずいた。
「以前、コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステでRX-VISIONを見ましたが、古典的なモチーフを使いながら新しいデザインになっていると感じました。また、先日のジャパン・モビリティショー2023で拝見したICONIC SPも、その流れを感じさせるもので、実に美しいクルマでした」

そしてジウジアーロ氏が「あのコンセプトカーの市販化は?」と尋ねると、前田氏は「まだ未定ですが、プロダクトにしたいですね」と答えた。
自動車デザインにまつわる雑談のなかで、話題がランボルギーニ・ミウラに及んだ。このクルマのデザイン開発が始まった時点では、ベルトーネに在籍していたジウジアーロ氏が担当していた。けれども完成した時にはジウジアーロ氏はすでにベルトーネを離れていて、代わって腕を振るっていたのがマルチェロ・ガンディーニだった。ジウジアーロ氏は、笑いながら「その話はみんなから聞かれます」とおどけた仕草を見せた。
「私は、自分がミウラの父だとは言えません。確かに、私が描いたモチーフの一部がある。けれども友人でもあるマルチェロが素晴らしい仕事をしたことは間違いありません。ひとつだけ言えるのは、彼がミウラの後でデザインしたクルマを見れば真実がわかるでしょう、ということです」
前田氏は、ジウジアーロ氏の言葉を聞きながら、にこやかに微笑んでいる。名デザイナー同士のクルマ談義は、時間の制約がなければいつまでも続きそうだった。

【Giugiaro's pick up cars】
フィアット・パンダ

マツダ・ルーチェ

ランボルギーニ・ミウラ

マツダ3

マツダ ICONIC SP

 

こんな記事も読まれています

ピレリ、フェラーリとポール・リカールで2日間のタイヤテストを完了。2025年用コンパウンドや新ウエットタイヤを評価
ピレリ、フェラーリとポール・リカールで2日間のタイヤテストを完了。2025年用コンパウンドや新ウエットタイヤを評価
motorsport.com 日本版
 スバル[BRZ]の一部改良モデルが生産終了! 間もなく毎年恒例の年次改良を発表か?
 スバル[BRZ]の一部改良モデルが生産終了! 間もなく毎年恒例の年次改良を発表か?
ベストカーWeb
ヤマハ、カタルーニャGPに続き新エアロで走行。リンス、プラクティス2番手の要因は/第7戦イタリアGP
ヤマハ、カタルーニャGPに続き新エアロで走行。リンス、プラクティス2番手の要因は/第7戦イタリアGP
AUTOSPORT web
「紀伊半島ぐるり高速」の最南端でトンネル貫通! 未開通区間でも工事着々
「紀伊半島ぐるり高速」の最南端でトンネル貫通! 未開通区間でも工事着々
乗りものニュース
クルマの「左寄せ」って危なくないですか? ギリギリで“接触”する危険もあるのではないでしょうか。 教習所で教わる「キープレフト」はどのような運転をすれば良いのでしょうか?
クルマの「左寄せ」って危なくないですか? ギリギリで“接触”する危険もあるのではないでしょうか。 教習所で教わる「キープレフト」はどのような運転をすれば良いのでしょうか?
くるまのニュース
今こそ言いたい……「炭水化物、多すぎない!?」 MotoGPスペインGPへの道中で浮上した機内食のナゾ
今こそ言いたい……「炭水化物、多すぎない!?」 MotoGPスペインGPへの道中で浮上した機内食のナゾ
バイクのニュース
カモフラ柄の斬新なフェラーリは“破天荒な御曹司“の特注品! オークションに登場した「特別な跳ね馬」の気になる落札価格とは?
カモフラ柄の斬新なフェラーリは“破天荒な御曹司“の特注品! オークションに登場した「特別な跳ね馬」の気になる落札価格とは?
VAGUE
フェラーリのカリスマ、ルカ・ディ・モンテゼーモロが成し遂げたこと 【第8回】フェラーリのブランディング戦略
フェラーリのカリスマ、ルカ・ディ・モンテゼーモロが成し遂げたこと 【第8回】フェラーリのブランディング戦略
AUTOCAR JAPAN
【MotoGP】マルク・マルケス、スタートさえ改善できれば優勝も近いと自信。イタリアファンからのブーイング減実感「ドゥカティに乗っているのが助けになった」
【MotoGP】マルク・マルケス、スタートさえ改善できれば優勝も近いと自信。イタリアファンからのブーイング減実感「ドゥカティに乗っているのが助けになった」
motorsport.com 日本版
話題沸騰! 旧車オーナー注目の「電動クーラー」は19万8000円から! 非力なコンパクトカーやマイナー車種にも装着できます
話題沸騰! 旧車オーナー注目の「電動クーラー」は19万8000円から! 非力なコンパクトカーやマイナー車種にも装着できます
Auto Messe Web
普通のポルシェじゃ物足りない? 「シンガー」がレストアした過激な911が最高すぎる!
普通のポルシェじゃ物足りない? 「シンガー」がレストアした過激な911が最高すぎる!
くるくら
「RYUTA・T」、「SEnR1」両氏によるイラスト展が【UNITEDcafe】にて。バイク乗りイラストレーターのこだわりを観る! 
「RYUTA・T」、「SEnR1」両氏によるイラスト展が【UNITEDcafe】にて。バイク乗りイラストレーターのこだわりを観る! 
モーサイ
【写真蔵】ヒョンデのハイパフォーマンスEV「アイオニック5 N」が、いよいよ日本デビュー!
【写真蔵】ヒョンデのハイパフォーマンスEV「アイオニック5 N」が、いよいよ日本デビュー!
Webモーターマガジン
横浜ゴム 北米オフロード界のスター キャメロン・スティール選手と契約
横浜ゴム 北米オフロード界のスター キャメロン・スティール選手と契約
Auto Prove
次世代ハイブリッド搭載の[新型フォレスター]は[燃費]も[乗り心地]も歴代最高間違いなし!! 騒音低減の新技術を採用!
次世代ハイブリッド搭載の[新型フォレスター]は[燃費]も[乗り心地]も歴代最高間違いなし!! 騒音低減の新技術を採用!
ベストカーWeb
メルセデス、ひとつしかない新型ウイングをラッセルに託したのはハミルトンの提案だったと明かす/F1第8戦
メルセデス、ひとつしかない新型ウイングをラッセルに託したのはハミルトンの提案だったと明かす/F1第8戦
AUTOSPORT web
トヨタ新型「ハイラックス」発表! タフ顔に“顔面刷新”! アドベンチャー仕様もある「本格トラック」越に登場
トヨタ新型「ハイラックス」発表! タフ顔に“顔面刷新”! アドベンチャー仕様もある「本格トラック」越に登場
くるまのニュース
選手の凄技を近くで見たら沼った!! トライアル世界選手権開幕戦を観戦レポート
選手の凄技を近くで見たら沼った!! トライアル世界選手権開幕戦を観戦レポート
バイクのニュース

みんなのコメント

3件
  • fxnhe501
    自動車デザイナーの世界で、ここまで自分自身をブランディングして売ることに成功した人はいない。レイモンド・ローウィ以来だと思う。逆に言えば、ジウジアーロ以外にも凄い自動車デザイナーはたくさんいるということだ。
  • Bi***
    スズキGSX1100Sカタナのハンスムート。
    Nikon F3、117クーペのジウジアーロ。
    いい時代に生まれてよかった。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

289.0316.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

19.9350.0万円

中古車を検索
パンダの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

289.0316.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

19.9350.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村